【注意】これだけは覚えておきたい、発酵食で危ない菌5選+番外編【事例と対策も紹介】
発酵食の多くは微生物の力を借りて作るものです。
しかし、一歩間違えれば有害な菌が繁殖して食中毒の原因にもなり得ますので、発酵食を楽しむには微生物の危険な面も知っておく必要があります。
この記事では発酵食好きにぜひ知っておいて欲しい危険な菌5つ+番外編と、その対策について紹介しますので、手作り発酵食に興味がある方はぜひご参考ください!
▼▼▼この記事を書いた人▼▼▼
食品衛生責任者という資格も持っています!
これだけは覚えておきたい、発酵食で危ない菌5選+番外編
結論からいうと、手作り発酵食で危ない菌は以下のとおりです↓
- ボツリヌス菌
- 黄色ブドウ球菌
- サルモネラ菌
- 腸炎ビブリオ
- ウェルシュ菌
番外編…納豆菌
本当は例を挙げればキリがないのですが、今回は特徴的な菌に絞りました。
これだけでも覚えておいてもらえると食中毒のリスクが減られます。
どれも食品を扱う食品衛生責任者で学ぶ菌ばかり。
ぜひ参考にしてみてください。
食中毒の菌は毒素タイプと感染タイプに分かれる
まず、食中毒を引き起こす菌は毒素タイプと感染タイプに分かれます。
ざっくり言うと、このように分類できます。
毒素タイプ…菌自体に害はないが、生成する毒素に害がある
- ボツリヌス菌
- 黄色ブドウ球菌
感染タイプ…菌そのものが体内で繁殖、害を及ぼす
- サルモネラ菌
- ウェルシュ菌
- 腸炎ビブリオ
毒素タイプの菌の特徴
毒素を出すタイプは菌そのものは無害ですが、ある条件で人間に有害な成分を生成します。
この記事で紹介するのはボツリヌス菌と黄色ブドウ球菌の2つです。
覚えておきたい危険な菌①:ボツリヌス菌
ボツリヌス菌は地上で最も強い毒性を持つボツリヌス毒素を出す菌として知られています。
ボツリヌス菌の特徴
ボツリヌス菌は嫌気性といって、空気の無い環境を好んで繁殖する菌です。
真空パックのような酸素に触れない状況を好みます。
さらに好塩性なので塩にも強く、塩分を気にしてむやみに塩を控えると繁殖を招く恐れがあります。
土壌や野菜の表面など、自然界に広く生息しているので接触を避けるのは難しいです。
ただし、有害なのはあくまで生成するボツリヌス毒素なので、ボツリヌス菌自体との接触で害が出ることはありません。
ボツリヌス菌は殺菌するのが大変な菌
ただし、ボツリヌス菌が芽胞(がほう)と呼ばれる防御態勢入ると殺菌は難しく、120℃を4分以上持続させなければいけません。
つまり熱湯をかけても殺菌できない場合もある、非常に厄介な菌だといえます。
過去に起こった中毒例
ボツリヌス菌の中毒例は世界中で確認されています。
ヨーロッパではウインナーやソーセージを乳酸発酵させるプロセスでボツリヌス菌が混入する事例が。
日本ではいずし(魚の麹漬け)や真空パックの辛子レンコンなどでの例が報告されていました。
他にも、嫌気性なので殺菌処理の甘かった缶詰めや瓶詰め食品で確認されており、空気に触れない環境下で発生しています。
ボツリヌス菌の対策
さいわい、害の原因であるボツリヌス毒素は80℃で30分、100℃10分で無毒化されます。
そのため摂食前にしっかり加熱することで無毒化できます。
菌自体は殺菌できなくても、毒素を無毒化することが可能です。
また、保存食の塩分をむやみに控えずしっかりと塩分濃度を確保することも重要といえます。
例えば味噌の場合、塩分濃度は約12~13%と高く、好塩性とはいえボツリヌス菌にとってとても厳しい環境です。
さらに、ボツリヌス菌は酸性に弱く、pH5以下では生育できません。
このように、味噌の場合は塩分と酸度のダブル効果でボツリヌス菌を抑えるので、正しい作り方を心がければ心配いりません。
赤ちゃんにハチミツがNGな理由
ボツリヌス菌自体は毒性を持たず、摂食しても人間の腸内にいる菌に淘汰されます。
しかし、腸内菌の環境が充分に整っていない1歳未満の赤ちゃんだと、腸内でボツリヌス菌が繁殖してしまう場合があります。
赤ちゃんにハチミツを食べさせていけない理由はこのためです。
厚生労働省HPより引用
覚えておきたい危険な菌②:黄色ブドウ球菌
黄色ブドウ球菌も菌が出すエンテロトキシンという毒素によって、食中毒を引き起こす可能性を持つ菌です。
黄色ブドウ球菌の特徴
黄色ブドウ球菌は表皮常在菌、つまり我々の皮膚に常にいて、完全に殺菌するのが難しい菌のひとつです。
別名日和見菌(ひよりみ-きん)とも呼ばれ、健康であれば他の菌の繁殖を寄せ付けない有益な働きをする一面も。
しかしその一方で、一度不健康になって悪性の雑菌が増えると、一気にそちらに加担して肌荒れ・ニキビなどの原因となる態度がコロコロと変わる菌です。
いい方にも悪い方にも転ぶ、まさに日和見ですね。
こちらもボツリヌス菌と同様に好塩性で塩に強く、しっかりと塩分濃度が確保された環境でなければ繁殖する隙を与えてしまいます。
過去に起こった中毒例
紹介したように黄色ブドウ球菌は皮膚に常に存在する菌です。
過去には包丁で指を切ったまま調理を行ったため、傷口から食品に混入した事例が報告されています。
黄色ブドウ球菌の対策
まずは、手洗いによって接触機会を減らすことが第一です。
そして
- 包丁で指を切ったまま調理をしない
- (化膿など)ケガした手のまま食べものに触れない
というちょっとした注意で危険は回避できます。
また、食品を低温に保つことで菌の繁殖は抑えられます。
そのため食材は7℃以下の冷蔵庫で管理しましょう。
感染タイプの菌の特徴
感染するタイプは、食品内で増殖した微生物を摂食することで発生します。
代表例としてはサルモネラ菌、ウェルシュ菌、腸炎ビブリオなどがあります。
近年ではごく少量でも中毒症状が出るO-157やカンピロバクターなどもこの種類ですが、基本の対策は一緒です。
覚えておきたい危険な菌③:サルモネラ菌
生肉、生魚、生野菜など、生食時に多く症例が見られるのがサルモネラ菌です。
とりわけ鶏・豚・牛などの生肉に多く、レバ刺しが禁止された原因のひとつの菌といえばピンとくるかもしれません。
サルモネラ菌の特徴
サルモネラ菌は自然界にごく普通に生息していて、生息する範囲は広く、生肉・生魚・野菜などいたるところに潜んでいます。
近年では畜産業の衛生管理の向上でサルモネラ菌の低減化対策が行われていますが、それでも個人が調理をする際には注意が必要です。
時には1万個に1個くらいの確立で、ごく稀に卵管を通って生卵の中に入り込む場合もあります。
過去に起こった中毒例
サルモネラ菌の過去に起こった中毒事例も生食が大半を占めます。
- 焼肉やバーべキューでしっかり火が通っていない肉を食べた
- 生肉を触った調理器具から菌が繁殖した
といった、例が多く報告されています。
サルモネラ菌の対策
先の黄色ブドウ球菌同様に、まずは菌を増やさないよう食材は冷蔵管理します。
また、サルモネラ菌は75℃で15秒以上の加熱で死滅するので推奨されています。
O-157やカンピロバクターもこの温度で死滅しますので、ぜひ覚えておいてください!
なので生肉・生魚は中心部分まで火が入ったかを確認しましょう。
調理用具を分けるのも効果的
包丁・まな板は肉用・野菜用で分けるのも効果的です。
生卵も冷蔵保管し、割った生卵を放置しないで早いうちに使い切ります。
覚えておきたい危険な菌④:腸炎ビブリオ
好塩性で塩に強く、生魚など魚介類に多いのが腸炎ビブリオです。
腸炎ビブリオの特徴
腸炎ビブリオは海水と同じ塩分濃度3~4%の環境を好み、活発に増殖します。
そのため海水中に広く生息していて、魚介類の表面や体内にも入り込んでいる菌です。
さらに、繁殖スピードが早く、サルモネラ菌の倍のスピードで増殖する特徴もあります。
過去に起こった中毒例
過去には減塩目的で塩を減らしたイカの塩辛で食中毒の発生が確認されました。
通常イカの塩辛は塩分が10%以上ですが、症状の出た塩辛は4%と腸炎ビブリオが繁殖しやすい濃度であったことが分かっています。
腸炎ビブリオの対策
塩水を好む腸炎ビブリオは、真水に触れると浸透圧により細胞膜が破裂して死滅します。
そのため、生の魚介類は水道水などの清潔な真水でしっかり洗うことで撃退できます。
また、繁殖スピードは早いのですが、低温で増殖を抑えられるのは他の菌と一緒です。
そのため持ち運びや保管には氷袋などでしっかり冷やすようにしましょう。
覚えておきたい危険な菌⑤:ウェルシュ菌
ウェルシュ菌は本文冒頭のボツリヌス菌と似ていて、土壌など自然界に広く生息しており、芽胞を形成して100℃・1時間でも死滅しない熱耐性を持った菌です。
ウェルシュ菌の特徴
細かい種類はありますが、ウェルシュ菌はいわゆる腸内悪玉菌のひとつなので、土壌の他にも生肉にも付着していることがあります。
また、嫌気性で酸素の少ない環境を好むのも似ています。
熱に強く、50℃から繁殖し始めるので、加熱調理後に料理を冷ます時に繁殖しやすいのが特徴です。
過去に起こった中毒例
代表的な例だと、寸胴鍋で作ったカレーの中で繁殖してしまうことが挙げられます。
調理後に火を止めてゆっくりと放冷する際に繁殖、さらに寸胴鍋の中は空気が入りづらく、嫌気性の菌にとって適した環境です。
作り置きしやすいカレーやシチュー、煮込み料理で特に注意しましょう。
ウェルシュ菌の対策
まずは侵入経路である泥や汚れなどをしっかりと洗い落とすのが重要です。
次に、ウェルシュ菌は50℃位の温度を好みますので、加熱調理後は2時間以内に20℃以下に急冷するようにします。
カレーや鍋物などを保存する際にはタッパーなどで小分けにするのも効果的です。
あえて空気と触れる面を作って嫌気性の反対、好気性の環境を作ってやるとウェルシュ菌の繁殖を妨げることができます。
また、加熱食品中のウェルシュ菌はpHなどの関係により芽胞を形成していない場合も多いのが特徴。
カレーや鍋物を食べる前に15分以上加熱することでウェルシュ菌を死滅させることができます。
番外編:納豆菌
最後は納豆菌です。
納豆菌は有益な菌ですが、あなどるなかれ、場合によっては厄介な存在に変わります。
納豆菌の特徴
家庭で発酵食を作るのに一番気をつけたい菌が納豆菌です。
まず、熱に強くて121℃で20分以上加熱しないと死滅しません。
また、酸にも強くpH1~2もある胃酸にも耐えられます。
要するに、熱湯でも死なないし、酢やヨーグルトの酸にも耐えられるので殺菌が非常に難しいということです。
納豆の作り方はこちら↓
過程で混入しやすい菌
家庭だとパックの納豆を日常的に食べることも多く、納豆を食べた後の手・口・道具を介して食品に入り込む可能性が高い菌です。
家庭で作る麹に紛れ込むとスベリ麹といってぬるぬるとして味と香りの悪い麹が出来上がることがあります。
そのため麹屋さんはもちろんのこと、日本酒・焼酎・醤油・味噌などを作る会社では製造期には納豆を禁止するところが多いです。
納豆菌自体は有益な菌ですが、他の発酵食に混入することで影響を及ぼすこともあるとてもタフな菌なので、発酵食好きには注意していただきたい菌です。
じつは、私も過去に納豆菌にやられました…
その時の詳細はこちらをご参考ください↓
まとめ:目に見えないからこそ、危険性と対策を知ろう
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
私は日本酒を作る蔵人という仕事に就いて、色々な菌の世話をしています。
菌を元気に育てることでおいしくて有益な発酵食が出来上がりますが、菌を育てるのと同じくらい、菌を排除することも重要です。
特に今回挙げた菌は食中毒を引き起こすものがメイン(納豆菌を除く)で、場合によっては命に関わります。
基本である手洗い・道具の清潔はもちろんのこと、もう一歩踏み込んでよりくわしく知ることで食中奥のリスクは減らせます。
この記事が安全に発酵食を楽しくために少しでも役立てば嬉しいです。