納豆がタブーとされる理由は?蔵人は納豆を食べてはいけない話

こんにちわ。スタコジ(@jitakuseigikuin)と申します。
麹を中心とした発酵食の情報を発信している麹ブロガーです。
普段は日本酒の造り酒屋に勤める蔵人(くらびと)をしています。
酒屋万流にも共通点
酒造業には酒屋万流(さかやばんりゅう)という言葉がありまして、ざっくり意味をかいつまむと、
造り酒屋の数だけ酒の作り方、理想とする酒へのアプローチがあるという意味です。
この酒屋万流という考えが、今現在の個性豊かな日本酒の幅を形成してるといえます。
私も約10年の蔵人経験の中でいくつかの酒蔵を経験し、様々な蔵の考え方と製造方法に触れてきたのですが、万流とは言えどいくつか共通したルールがありました。
納豆の禁止
そのひとつに「酒造期中は納豆を食べてはいけない」というのがあります。
なぜ蔵人は酒造期の間は納豆を食べてはいけないのでしょうか?
今回は蔵人と納豆の関係についてまとめてみました。
納豆を食べられない理由
結論を言うと、納豆菌はめちゃくちゃ強いからです。

温度に強い
納豆菌は生存の危機に陥ると、芽胞(がほう)というカプセル状の膜を作り自身を守ります。
この芽胞が頑丈な鎧となり、高温の環境にも耐えることができるようになります。
芽胞を形成した納豆菌を完全に煮沸殺菌しようと思うと、121℃で20分以上加熱する必要があります。
水の沸点が100℃ですので、熱湯以上の温度がいるということで大変に殺菌しづらい菌です。
酸に強い
また、芽胞により強酸にも耐性を持ち、人間の胃酸にも耐えることができます。
人間の胃酸はpH1~2と非常に強い酸性なので、これに耐えうるというのは恐るべきものです。
発酵中の日本酒(もろみ)は酸性を保つことにより雑菌の侵入を防ぎますが、それでももろみのpHは4くらいなので、納豆菌にとっては屁でもない環境です。

納豆菌に汚染される恐れがある
これほど熱と酸に強い菌が持ち込まれると、もろみが納豆菌に汚染される危険が出てきます。
私はこれまで幸いにも、納豆菌が混入繁殖したもろみを実際に見たことはないのですが、
納豆菌に汚染されたもろみには異常に高い酸・不快に感じる香味が生じるそうです。
言わずもがな、製品の品質を大きく下げてしまう由々しき事態と言えます。
そのため、納豆菌による異常発酵の害を防ぐために、蔵人は酒造期の間は納豆を食べてはいけないというルールが生まれました。
納豆菌は麹にとっても大敵
納豆菌による汚染は麹にも及びます。

酒蔵では一般的に自社で麹を造ります。
その際、蒸した米を麹室(こうじむろ)という専用の部屋に引き込み、麹菌繁殖させて麹を作ります。
この工程で納豆菌が混入すると発生するのがスベリ麹です。
納豆菌は繁殖力もめちゃ強く、麹菌の繁殖スピードを上回って納豆のようにぬるついた麹にしてしまいます。
こうなってしまうと麹室の道具はもちろん、麹室の壁など空間全体を殺菌消毒する必要があります。

しかし相手は高熱・強酸に耐えうる納豆菌となると、造り酒屋の心臓部とも呼ばれる麹室を一度止めてしまわなければいけません。
麹室を止める=製造計画そのものをストップさせることを意味します。
これは製造業にとって多大な被害となるのは想像に容易いことです。
納豆OKの蔵もある
ただし、納豆OKという蔵も少数派ですが存在するようです。

例えば、職場である蔵内では納豆NGだけど、宿舎に戻って食べるのはOK。
納豆を食べた後に歯を磨けばOK。
製造に携わる人はNGだけど、営業職や事務職の人はOK。
なんていうまさに酒屋万流なやり方があるようです。
逆に、発酵食全般NGの蔵もある
ただし逆に、納豆だけでなくヨーグルトやキムチ、ぬか漬けといった発酵食全般をNGとするより厳格なルールを持つ蔵もあります。
見学の一般の方にも発酵食を食べたり持ち込んだりを禁止している蔵もありますので、もしも見学に行く機会がありましたらあらかじめ蔵の人に聞いてみるといいでしょう。

追記:2021年12月
とうとう私にも納豆菌の汚染を身をもって味わう日がやってきました…
栗で麹を作ろうとして、スベリ麹になった様子と原因についてこちらの記事にまとめました。
よろしければご参考ください▼▼▼▼▼
