酒造技能士の試験対策は?技能士検定を受けるまでのプロセスを詳しく紹介

以前に技能士の資格について紹介いたしました。
技能士の概要・受験資格などについてはこちらの記事をご参考ください▼▼▼▼▼

今回は私が実際に技能士(1級酒造技能士)を取得した時のお話と、取得後に感じたリアルな感想を紹介します。
実際に試験を受けて合否通知が来るまでのプロセスも詳しく紹介しますので、
酒造だけでなく他業種の技能士を目指す方にも有益な情報をお伝えします。


▼▼▼▼▼この記事を書いた人▼▼▼▼▼
技能士になるメリット
国家資格である


技能士検定は厚生労働省により定められた検定制度であり、いわゆる国家資格です。
その分野のプロとしての熟練度合いが公的に証明されます。
プロとしての熟練度が認定される
熟練度合いとは何か?私が受けた酒造分野を例にとってみます。
お酒といえば、きき酒師のような味覚を試される資格が思い出されますよね。
実際、酒造技能士の試験でもきき酒の試験は出てきます。


しかし利き酒ができるというのは能力の一部です。
きき酒だけできてもお酒は作れません。
タクシーの運転手が自動車免許だけではプロとは言えないのと一緒です。道路を覚える記憶力や接客マナーも必要ですよね。
酒造のプロの場合、きき酒能力の他にも
- 原料(お米)に対する知識
- 水や道具を正しく扱う技能
- 品質を保持する管理能力
これら複数の能力が必要とされます。
このように、きき酒のようなひとつの技能に限らず、プロとしての総合的な熟練度が試されるのが技能士です。
同業種での転職・キャリアアップに役立つ
そのため、同業種での転職・キャリアアップに役立ちます。


転職であれば実務経験は履歴書を読めば分かりますが、技能までは面接だけではわかりません。
技能士資格があれば公的資格として一定水準の技能が証明されます。
転職でなくとも、勤め先に資格推進制度があれば資格手当て・費用の会社負担といったメリットを受けられます。
自身の得意・不得意が洗い出せる
先ほどもお伝えしたように、技能士では業種全般の熟練度が試されるので、試験の出題範囲は広いのが技能士試験の難点です。
そのため出題範囲によっては苦手な分野もあるかもしれませんが、これは逆に自身の得意・不得意を洗い出せるチャンスだといえます。


得手・不得手の洗い出しは自身の人材としてのスキルアップチャンスに。
個人のスキルアップは企業にとっても人材育成になり、双方にとってメリットとなります。
トヨタでいう多能工を目指せる
近年、多能工という人材育成の仕組みが広まっているのをご存じでしょうか?
多能工とは、大まかにいうと組織全体を俯瞰できて、どの役割も担える人材のことを指します。
これはトヨタ自動車で発案され、製造業のみならず星野リゾートなどのサービス業でも採用されています。


多能工化のメリットはどこでも対応できる人が複数人いるだけで、
- 従業員の負担を軽減できる
- 仕事の質を落とさずにすむ
という点です。
例えば、繁忙期やイレギュラーな事態に見舞われてもすぐに人員補充ができるので影響を最小限に抑えられます。
こうした多能工化を目指す企業の目には、総合力が認定される技能士は魅力的な人材に映ります。
実際に試験を受けるまで
ここからは私が実際に技能士試験を受けて合否通知を受け取るまでのプロセスを紹介します。
職業能力開発協会に受験申し込みをする
まずは検定の実施機関である各都道府県の職業能力開発協会に問い合わせます。
JAVADA(中央職業能力開発協会)公式ページより
問い合わせ方法は電話、メール、お好みでどうぞ。
そこで受けたい技能士検定の職種と級位を伝えます。
私の場合は先述のとおり酒造技能士の1級を希望しました。
実施する都道府県を確認
ここで要注意なのが、職種によっては検定を実施する各都道府県が限られるという点です。
例えば酒造技能士検定は、中部地方だと長野・石川・新潟のみでの開催です。富山・福井・岐阜・愛知・静岡では実施されません。
関西では兵庫のみの開催で、滋賀・大阪・京都でも同じく実施されないようです。
そのため、もし在住の都道府県で検定が実施されない場合、近隣の実施する都道府県の協会とやり取りをする必要があります。
在住の都道府県で実施されるのか、もしされないなら近隣ではどこで実施されるのかを質問して確認しましょう。


申し込み用紙を郵送してもらう
実施する都道府県が判明したら、受験申し込み用紙を郵送してくれます。
到着したら必要事項を記入して送り返し、問題が無ければ申し込みはこれでOKです。
資料請求も忘れずに
その際に試験日や会場、出題範囲などについても詳しく質問しましょう。
試験概要は公式ページからも確認できますが、
JAVADA(中央職業能力開発協会)公式ページより
試験日と会場はそれぞれ実施都道府県で異なります。
必ず直接問い合わせて確認しましょう。
私の場合もいろいろ質問した結果、申し込み用紙と一緒に試験の日程、会場までのアクセス、より詳しい出題範囲も一緒に郵送して頂きました。
受験料を確認
受験料は一律で学科が3,100円、実技が18,200円かかります。
技能士を目指す多くの方は企業に在職中の実務経験者でしょうから、勤め先に資格推進制度などがあれば積極的に利用しましょう。
また、若年層の受験の場合、都道府県によっては受験料が引き下げられる場合もあります。
資料請求と一緒によく確認するのをおすすめします。
試験対策


申し込みが済んだら試験対策です。
技能士検定の試験は学科と実技に分かれており、それぞれ別日に行われます。
学科試験:過去問を繰り返す
学科試験は全50問出題され、真偽法及び四肢択一法形式です。(3級のみ真偽法)
真偽法は問題文に対して正・誤どちらかで回答します。四肢択一法はいわゆる四択問題のことです。
100点中65点以上が合格ラインとなります。
残念ながら酒造技能士専用のテキスト類は需要が少ないためか、市販はされてないようです。
そのため過去問を繰り返し解いて試験の言い回しやクセに慣れるのが一番です。
過去問は無料で見ることができます。ぜひ活用しましょう。
JAVADA(中央職業能力開発協会)公式ページより
また、日本醸造協会にて酒造技能検定対策講座が開設されています。
受講料5,500円で過去3年分の過去問に対する解説が付きますので、解説が欲しい方は受講を検討してみるのもアリですね。
公益財団法人日本醸造協会公式ページより
実技試験:得意分野から広く体系的に確認
実技試験は100点中60点が合格ラインです。
酒造技能士では1級2級共通で、
- 精米判定
- 麹判定
- 酒母判定
- もろみ判定及び測定(分析のこと)
- 製成作業
- 利き酒
などと、清酒製造のほとんどの範囲が出題されます。
そのためどこか一点を重点的に勉強するよりも、広く体系的に確認しておくのをおすすめします。
例えば、精米判定はいくつかのシャーレにのった白米を見比べて精米歩合を低い順に並べたり、不良精米はどれかを判定します。
この時、精米機の原理が頭に入ってるとおのずと答えが見えてきます。
たとえば白米に胚芽が残っていたら、精米機の金剛ロールの整備不十分が考えられますよね。


さらに次の麹判定でも、いくつかのシャーレにのった麹を見比べて、「酒母に適した麹はどれか」といいた出題がされます。
酒母に必要なのは酵母の健全な生育です。
そのため酵母の活動源であるグルコースを多く生成する麹が適している→その麹はどんな麹か?→少なくとも若い麹ではない→一番成育が進んだ麹が正解、という風になります。
このように設問の前後の工程も考慮しつつ考えていくことで解答率が高まるので、体系的に取り組むのがおすすめです。
得意分野から確認していく
さらにもうひとつポイントがあるのですが、この時得意分野から埋めていきましょう。
麹屋さんなら麹のことから、釜屋さんなら洗米~蒸し米のことをよく確認しておきます。
いきなり全体を広くカバーするよりも、深く理解できているポイントがいくつかあった方が、結果的に早く全体の理解につながりやすくなります。
「広く浅く」は理解不足で失敗しやすいし、
— ふろむだ (@fromdusktildawn) January 17, 2022
「狭く深く」は視野狭窄で失敗しやすい。
いろいろやってみて、こうすると上手くいくことがわかった: pic.twitter.com/7yLCgy5zqo
専門器具は職場のものを借りる
他にも与えられた試料からアルコール値を分析し、その値をもとに検定の提出資料を作るといった試験もあります。


アルコールの分析には蒸留器などの専門的な器具が必要ですが、個人が揃えるには無理があります。
そのため酒蔵なら分析室が必ずあるので、会社の専門器具を借りて練習するのが手っ取り早いです。
年によって試される実技は異なります。他にも、ろ過機、もろみポンプ、圧搾機といった専門器具も積極的に触れて練習しておきましょう。
くれぐれも慣れない機械で事故を起こさないように注意してください。
会社にはひとこと言っておく
この時、会社にもひとこと言ってから借りましょう。
日常業務以外での使用ですから、技能士検定の受験の意思を伝え、器具を使う許可は必要です。
それに、もしかしたらこれがきっかけで、資格取得促進制度が無かった会社でも応援費用や手当てがつくかもしれません。
もし酒造会社に在職中でない、何らかの理由で会社から器具が借りられない場合は、先に紹介した日本醸造協会で実技対策講座が受講できます。
公益財団法人日本醸造協会公式ページより
受講料は19,800円と決して安くはありませんが、WEB講習で180日間何回でも見直せるのはありがたいです。
実際に受験
試験対策をしたら、いよいよ本番の検定試験です。
私からアドバイスできる点は以下の3つです。
わかる問題から解いていく


わからない問題に時間を費やすよりも、わかる問題から先に解いていきましょう。
試験の鉄則ですね。
直前にお腹いっぱいごはんを食べない


これも鉄則です。
食事の消化・吸収による血糖値の上昇で眠くなります。
また、胃に血流が集まるので脳への血流が減少、一時的な集中力の低下も起きるので軽食程度にしておきましょう。
きき酒があるので車で試験会場に行かない


酒造技能士の検定だと、職業柄きき酒の実技試験が行われます。
検定申し込み時の注意書きにも記載があるはずですが、飲酒運転になりますのでくれぐれも車の運転は避けて公共交通機関を使いましょう。
約1月後に合否通知が届く
学科・実技試験の両方を終えてだいたい1ヶ月後には合否通知が届き、合格すると追って合格証書と技能士のバッジが届きます。
ここまでが技能士検定受験のプロセスでした。
まとめ
技能士を資格を得るメリットは以下の3つを紹介しました。
技能士資格についての個人的な感想
最後に私の感想ですが、技能士はあくまで資格です。
資格はものさしであって仕事の本質ではありません。
私自身も職場や仲間の協力があって1級酒造技能士という資格を取得させてもらいましたが、自分のことを1人前の仕事人だとは全く思ってもいないし、まだまだ勉強が必要だと感じています。
なぜなら、資格を持つことイコールいい仕事には直結しないからです。
ただし、資格がまったく役に立たないとも思いません。
合格すれば自信もついて仕事に前向きになれます。


転職・キャリアアップの保険材料としてだけでなく、確実にステップアップの要素にもなります。
実務経験がある方ほど、知らぬうちに受験資格をクリアしていたりするので、ぜひ一度受けてみてはいかがでしょうか。
決して無駄にはなりませんよ。
最後に
技能士に興味のある方のために、私が経験したプロセスをまとめてみました。
ここまでの長文をお付き合いいただいた、技能士資格を通じて次のステップに一歩踏み出すあなたの助けになれば嬉しいです。





