アル添酒=悪い酒は本当?蔵人が教える自分好みのアル添酒の見つけ方
アル添とはアルコール添加の略で、
日本酒に醸造アルコールを添加することを指します。
アル添に対して
- 「アルコール臭くなる」
- 「悪酔いする」
といったあまり良いイメージがなく、敬遠されがちです。
結論からいうと、
私はアル添を善とも悪とも思っていません。
あくまで醸造技術のひとつです。
作り手の使い方ひとつで
簡単にメリットにもデメリットにもなり得ます。
この記事では酒造りの技術者目線で
アル添のメリットとデメリットを整理します。
また、私が実践している自分好みのアル添酒を見分けるコツも紹介します。
▼▼▼この記事を書いた人▼▼▼
そもそも醸造アルコールとは?
まずは醸造アルコールについて簡単に説明いたします。
アル添の原料である醸造アルコールはサトウキビを原料とした蒸留酒で、原料表示名は同じく「醸造アルコール」と表記されます。
サトウキビの糖を一度アルコール発酵させ、
複数回の蒸留を経てアルコール分95%まで高めます。
ほぼ純粋なアルコールだけなので、味は非常にクリアでサトウキビの味や香りなどは残っていません。
醸造アルコールを加水して、アルコール度数36%未満まで下げたものはホワイトリカーとして発売されます。
日本酒だけでなく、梅酒などのリキュールや缶チューハイの原料などに幅広く使用されます。
アル添のメリット3選
日本酒にアル添をするメリットは、大きく3つあります。
順に見ていきましょう。
メリット① 香りと味を整える
アル添していないお酒が必ずしも最高の状態だとは限りません。
多種多様な日本酒がある中で、
適度なアル添は日本酒の味と香りを整え、お酒の個性を引き立てます。
香りを整える
カプロン酸エチル・酢酸イソアミルなどの日本酒の香り成分は非水溶性です。
アルコールには溶けますが水には溶けません。
7割以上が水分である日本酒は、
意外にも香り成分が溶けづらいお酒なのです。
溶けなかった香りはお酒と酒粕に搾り分ける際に酒粕のほうに残ります。
そこで、搾る前にアル添をすることで香り成分をアルコールに吸着させ、より多くの香りを引き出す効果が期待できます。
吟醸・大吟醸が非常に香り高いタイプが多く、アル添されてるのはこのためです。
香り高いアル添タイプの日本酒はこちら↓
味を調える
最初に触れたように醸造アルコールは純粋なアルコールに近いので、非常にクリアな味です。
一方、日本酒にはグルコースなどの
・糖質
・アミノ酸
・有機酸
などのお米由来のエキスが豊富に存在します。
糖質やアミノ酸・有機酸が多すぎると味が重たく感じてしまいますが、適度なアル添はエキスの味や旨味を和らげ、お酒にキレとスッキリした飲み口を与えます。
キレ・スッキリタイプのアル添酒はこちら↓
メリット② 保存性を上げる
アル添は、日本酒のアルコール度数を上げて雑菌による腐敗を抑える効果があります。
これは日本酒だけでなくワインの世界にもみられる手法です。
火落ち菌から日本酒を守る働き
日本酒は醸造酒の中では飛び抜けて高いアルコール度数と酸度があり、通常では雑菌に汚染しづらいお酒です。
しかし、日本酒には火落ち菌という天敵がいます。
火落ち菌という菌は強いアルコール耐性と酸耐性を持ち、日本酒に含まれるメバロン酸を好んで食べて繁殖します。
メーカーが最も気を付けているのがこの火落ち菌による「火落ち」です。
酒の白濁と著しい香味の低下を引き起こします。
しかし、火落ち菌も完璧なアルコール耐性がある訳ではなく、アルコール度数16度以上から生存率が下がり、よりアルコール度数が高いほど火落ちのリスクが下がるとされてます。
江戸時代初期には行われてたアル添(柱焼酎)
童蒙酒造記(どうもうしゅぞうき)という江戸時代初期に記された酒造りの秘伝書には、米焼酎・粕取り焼酎を搾ったお酒に添加する方法が記されています。
「味がしゃんとし、足強く候(そうろう)」
と記されており、
足が強いとは「腐りにくい」という意味だと推測されます。
このアル添技法はお酒を支えるという意味で
柱焼酎(はしらしょうちゅう)と名付けられていました。
保存性を上げる海外のアル添例
アル添は日本酒に限ったことではありません。
ワインの世界では、航海に耐えうる保存性を確保するためにブランデーなどの蒸留酒を添加する技術が生まれました。
・スペインのシェリー
・ポルトガルのマディラワイン
・同じくポルトガルのポートワイン
が世界3大酒精強化ワインとして知られてます。
酒精強化ワインの例↓
メリット③ コストを抑える(一部)
製造コストにおいて、大量生産に向く醸造アルコールはコスト面に優れます。
アルコールを添加することによって、
原料のお米に対してのお酒の製造量が増え、コストを抑えられます。
ただし日本酒には特定名称制度があり、
精米歩合・米の等級・添加できるアルコールの上限が規定されています。
特定名称の例 | 精米歩合(※1) | アル添(※2) |
大吟醸 | 50%以下 | 有り |
純米大吟醸 | 50%以下 | 無し |
吟醸 | 60%以下 | 有り |
純米吟醸 | 60%以下 | 無し |
本醸造 | 70%以下 | 有り |
(※2)アル添量は、alc度数95%換算で白米重量の10%以下とする
大吟醸・吟醸はもっぱら酒質調整の意味合いで使われるので、コスト面での恩恵はほぼありません。
逆にコスト抑制の恩恵が大きいのは本醸造と
この規格に該当しない、いわゆる普通酒と呼ばれる部類です。
例えば、特定名称を名乗るにはアル添は使用する白米の1/10とされていますが、それ以上アルコールを添加しても違法ではありません。
特定名称が名乗れなくなるだけです。
それらの規格から外れたものを総称したのが「普通酒」です。
アル添のデメリット
ここからはアル添のデメリットをみていきます。大きく分けてこの2点です。
順にみていきます。
デメリット① 過度なアル添は飲み口をきつくする
メリットと表裏一体なのですが、
過度のアルコール添加は飲み口をきつくして、日本酒の本来の味わいを損ねることがあります。
アル添をカルピスに例えるなら、
お酒がカルピスで、水が醸造アルコールです。
カルピスは原液のままだと濃すぎるので水で薄めて飲みやすくします。
しかし、あまりに水が多いと、今度は水っぽくなってしまいます。
カルピスにもアル添にも、適度な濃さがあるはずです。
ですが、水で薄めるとカルピスが長持ちするのと一緒で、アル添量が多いとコスト抑制になるのも事実。
そのためコスト優先でアル添をすると、適度な濃さから外れたお酒になってしまします。
デメリット② 混ぜ物=悪酒という歴史的背景がある
そもそも論として、アルコール添加にはマイナスイメージが長年定着しています。
原因は第二次世界大戦後までさかのぼります。
当時、日本は深刻な物資不足に陥り、酒造メーカーは最小限の原料で最大限の酒を造ることが求められました。
そこで誕生したのが三増酒(さんぞうしゅ)です。
三増酒は日本酒にアルコール、糖類、酸味料、グルタミンソーダなどを添加する方法で、原料の米の使用率を通常の50%以下まで抑えることができます。
通常の3倍の量が造られたのが名前の由来です。
しかし、味は通常の日本酒からはかけ離れた、味が薄い割に口の中でベタつく粗悪なものだったそう。
2006年の酒税法改正により、三増酒は分類上清酒からは外れました。が、現在でも全く造られてない訳ではありません。
二増酒という近しい製法も存在します。
そのため
酒に何かを添加する=安酒というイメージがあることは否定できないでしょう。
自分好みのアル添酒の見つけ方
ここまでメリット・デメリットを見てきました。
ここまで読まれた方はお気づきかと思いますが、
アル添そのものが酒の品質を落とすのではなく、
コスト優先で適正量を超えたアル添が品質を落とすのです。
なのでアル添酒=悪酒と決めつけて食わず嫌いするのではなく、
自身の好みと用途に合わせてお酒を選ぶのが一番ではないかと思います。
次章では私なりのアル添酒の選び方をまとめてみました。
では、実際にお酒を選ぶ際には
どのような基準で選べばよいのか私なりの考えをお伝えします。
香りを楽しむなら吟醸・大吟醸
見てきたように、吟醸・大吟醸のアル添の目的は香りを出すことです。
フルーティーで香り豊かなタイプがお好きであれば、吟醸・大吟醸を選ぶとよいでしょう。
ここでもうひとつポイントなのが、
適正価格も気にするということです。
吟醸・大吟醸のアル添の目的はコストを抑えるためではありません。
なので安すぎるものよりも適正な価格のものを選ぶと、より香味の優れたお酒である可能性は高くなります。
・吟醸なら1500~2000円
・大吟醸なら大体2500~5000円
くらいが目安です。
香りを楽しめる大吟醸タイプはこちら↓
普段飲みなら本醸造
リーズナブルで普段飲みを選ぶなら、
アル添量の上限が決められてる本醸造が向いてます。
本醸造を選ぶポイントは精米歩合です。
一般的な本醸造の精米歩合は60~70%程度です。(もちろん例外はあります)
お米のコクや味わいを楽しみたいなら
精米歩合70%とあまり磨いていないのものを。
お米をあまり磨いてない本醸造はこちら↓
すっきりしたものなら
精米歩合60%付近のものを選ぶとよいでしょう。
精米歩合60%の本醸造はこちら↓
意外と難しい普通酒
じつは、普通酒の見分け方が一番難しいです。
理由は、
- 地酒蔵の普通酒の多くは地元流通で、
全国的にあまり出回っていない
(大手をのぞく) - 法的な規定がないので、
見分け方に基準を設けづらい
この2点。
そこで私が勧めるのが
「好きな酒蔵の普通酒を試してみる」です。
味が好みだったお酒の酒蔵を覚えておいて、
そこに普通酒がないか調べてみましょう。
そうすれば味の好みから大きく外れることも少なくなります。
また、高品質なお酒を造る酒造メーカーは、普通酒も高品質な傾向があります。
その蔵の技術や設備がフラッグシップの高級商品だけでなく、リーズナブルな商品にも少なからず反映されるからです。
そういう意味でも自身の好きなメーカーの普通酒には香味に期待が持てます。
高品質な普通酒の例はこちら↓
最後に…アル添のテクニック
最後に、技術者から見たアル添のテクニックについて解説します。
ただ添加すればいいという訳ではなく、
おいしいアル添酒を作るにはいくつかのテクニックがあります。
かなり技術者よりの話です。
お酒の席での話のタネにでもどうぞ。
仕込み水で割って長期間保存する
醸造用アルコールが酒造メーカーに納品される際は、アルコール度数95%という高度数の状態で納品されます。
このままだとアルコールランプ同様に引火の危険性があるので、納品後速やかに加水をして、アルコール度数30%まで下げることが義務づけられています。
この際、アルコールと水が触れている期間が長いほど分子同士が安定し、刺激が和らぐとされています。
そのため、酒造メーカーによっては早いタイミングで醸造用アルコールを仕入れて加水し、約半年~数年間寝かせて刺激を和らげたアルコールを使います。
この時使う水がお酒を仕込む水と一緒だと、アル添した時の味の馴染みがいいとされています。
焼酎を前日に割水とした水割りを飲むとおいしいというのと同じ理屈です。
添加のタイミングは分刻み
アルコールの添加は、発酵中の微生物にとって大きな負担です。
そのため発酵途中でアル添をしてしまうと、ショックによって酵母が死滅してしまい、発酵不全に陥ります。
そのため、アル添は搾る直前の発酵終盤に行われます。
それでも、安易なアル添は酵母にダメージを与え、死滅した酵母菌の細胞膜が破れることでアセトアルデヒドが放出され、木香様臭(きがようしゅう)という不快な香りの原因になります。
そのため、特に香りが繊細な吟醸・大吟醸では、アル添は搾る30分~1時間前に行います。
細心の注意と時間管理のもとアル添が行われ、不快臭が出ないようにお酒を搾ります。
米由来の焼酎でアル添をする
近年、お米でできた日本酒との親和性をより高めようと、お米の品種や産地によりこだわった米焼酎でアル添する酒造メーカーもあります。
出典:sake times
既存の醸造アルコールに代わってお米の風味を活かした蒸留酒の使用することで、独特の個性を産み、日本酒の更なる多様化が期待されています。