驚異の発酵期間とこだわり【遠野のどぶろく生酛】レビュー

近年どぶろくがブームになりつつあるのをご存じでしょうか。
実は、近年の日本酒ブームから派生するようにどぶろく醸造所がどんどん新設されています。
引用元:SAKETIMES 日本酒をもっと知りたくなるWEBメディア
引用元:日本経済新聞社
私も職業柄気になってよく飲むのですが、次なるブームのポテンシャルがどぶろくにはあると常々感じています。
この記事ではお酒の製造に携わって10年以上の管理人が、実際に飲んでオススメしたいと思ったどぶろくについて紹介いたします。
▼▼▼▼▼この記事を書いた人▼▼▼▼▼

今回は遠野のどぶろく生酛を実際に飲んでみました。
1級酒造技能士(国家資格)、利き酒マイスター(日本醸造協会)を取得した私が、忖度なしでレビューします!
【お酒のタイプ】
- 品目:濁酒
- アルコール度数:14度(ロットによって変動あり)
- 火入れ:なし(発泡性ありの生酒)
- 精米歩合:記載なし
【テイスティングnote】
- にごりの濃さ ★★★★☆
- 舌触りのなめらかさ ★☆☆☆☆(つぶつぶタイプ)
- アルコールのアタック ★★★★☆
- 甘さ ★★☆☆☆
※筆者の主観による評価です
遠野どぶろく生酛の特徴

岩手県遠野にこだわったどぶろく
製造元は岩手県遠野市にあるとおの屋 要というオーベルジュ(宿泊施設を備えたレストラン)です。
岩手県遠野市は日本のどぶろく特区の第1号となった場所でもあります。
どぶろく特区とは?
日本では個人が許可なくお酒を醸造することは酒税法により禁止されています。
ただし、食文化の保全や伝統継承の観点から、限られた地区で一定の基準を満たした事業者に対してどぶろく(濁酒)の製造が許可されています。
この限られた地区というのがどぶろく特区です。
どぶろく特区での製造に必要な条件はざっくり以下の通り↓
どぶろく特区での製造条件…
- 製造者が育てた作物(お米)を原料として、どぶろく特区内の製造所で製造すること
- 製造者が民宿やレストランなど、自身のどぶろくを提供できる場所を持っていること
つまり、自身が育てたお米でどぶろくを醸し、提供できる施設をもっていることが条件です。
とおの屋 要 はオーベルジュの人気も非常に高く、1日1組限定のこだわりぶり!
どぶろくの条件

どぶろくの条件は、濾さないことです。
通常日本酒はお米と麹を発酵させたもろみを布製の搾り袋でお酒と酒粕に濾して分けます。
そのため、濾したものが清酒、濾さないものがどぶろく(濁酒)と定義されます。
技術的な細かいポイントを挙げればキリありませんが、
ざっくりいうと日本酒とどぶろくは原料も作り方も一緒で、濾すか濾さないかの違いです。
わざと粗く漉して、にごりを残すタイプもありますが、それらは厳密にはどぶろくではなく、日本酒(にごり酒)になります
日本酒の例はこちら▼▼▼

- 米と麹を発酵させる
- 濾したら日本酒(清酒)
- 濾さなかったらどぶろく(濁酒)
- つまり、原料と作り方は日本酒と一緒
原料へのこだわり
無農薬・無肥料栽培で育てた遠野一号


自家栽培されているお米は遠野一号というお酒造りではあまり聞かない品種です。
岩手県産の品種で1939年(昭和14年)に命名されるも、戦後コシヒカリのような冷害に強くて優れた食味米が人気を博し、押されるように岩手県内からも少しずつ姿を消していきます。
平成に入り、ほとんど遠野一号の姿を見かけなくなったなか、とおの屋要のオーナーである佐々木さんが長い時間をかけてどぶろく製造ができるまでに復活されました。


栽培方法も徹底されていて、無農薬・無肥料で育てることで、稲が本来持つ生命力をお米に凝縮させることができるとのこと。
ワインがブドウの木を枯れるギリギリまで追いこんで、実に養分を凝縮させるのに似ていますね。
原料を長期間熟成させて使用


こだわりは無農薬・無肥料だけではなく、お酒造りではかなり珍しい原料の熟成期間を設けられています。
通常のお酒造りではお米の収穫後に精米をして鮮度が落ちないうちにお酒を仕込むのですが、あえて熟成期間を設けることで力強い味わいが生まれるのだとか。
お米を熟成させるのは私も聞いたことがない、かなり珍しい工程です。
約1年間かけて発酵させる


驚くべきことはまだまだあります。
生酛(きもと)製法ではお酒になるまで約2ヶ月ほどの手間暇がかかりますが、このどぶろくはなんと6倍の約1年間かけて作られます。
10年以上蔵人やっていますが、発酵に1年かけるなんて聞いたことありません!
通常よりもゆっくりと発酵を進めることでお米の味がより溶け出て、微生物が生成する香りと味の成分が十二分に引き出されます。
- 原料は無農薬・無肥料で育てた地元のお米を使用
- 農薬と肥料を使わないことで生命力にあふれたお米ができる
- さらに原料を長期間寝かせて熟成
- 通常2ヶ月ほどの発酵にも、6倍の約1年間かける
- 長い期間と手間をかけてお米の味が十二分に引き出される
飲んでみた正直な感想
飲んでみた感想です。
グラスに注ぐと発酵による微発泡で泡がプツプツと上がってきます。


開栓は要注意
このどぶろくは熱殺菌をしていない生酒です。
そのため酵母菌がまだ活動して炭酸ガスを出しています。


ガス抜き用のキャップが使われていますが、開栓時にはキャップをゆっくりと開け、噴き出さないように開け閉めを繰り返す必要があります。
このにごり酒用のキャップは横倒し厳禁。
横にすると中身がしみ出てくるので注意です!
圧倒的米感
ひと口飲んでみると…
圧倒的米感…!
酢酸や乳酸菌による質感の異なる酸味を土台に、お米の穀物感、炊いた時のほっこりした甘さ、くどくない苦味…色んな要素が凝縮されている印象です。
アルコール度数も14度としっかりあります。
シュワシュワの発泡感も手伝って甘くなく、スッキリしていますが、とても複雑な余韻が続きます。


米感といっても粒々があるとか食感の意味ではなく、お酒の味がとても濃く感じます!
これ、めちゃくちゃおいしい!
正直、オフフレーバーもある


ここであえて申し上げたいのが、オフフレーバーもしっかりと存在することです。
オフフレーバーとは食品から生じる好ましくない匂いのことで、
日本酒の場合だと漬物臭や酢臭といった異質に感じる香りのことです。
乳酸や酢酸といった爽やかな酸味に混じって、漬物を感じさせる熟れた香りも。
日本酒の場合、このような熟れた香りを避けるために、あまり長い期間発酵させないにします。
私は職業柄少なくとも普通の人よりかはお酒の香りに敏感な方だと思いますし、実際に飲んでたしかにオフフレーバーは感じます。
日本酒の鑑評会であれば、減点対象になる香りです。
でも、全く不快に感じません。
漬物を食べて漬物臭を指摘する人はいない


オフフレーバーとは、日本酒という食品の中に漬物という異質の匂いがするからオフフレーバーだと認知されます。
このどぶろくの場合、発酵食そのものが詰まっているような濃厚さがあるので、オフフレーバーがもはや味として機能しており、気になりません。
これが遠野どぶろくの凄いところかと。
言い換えれば、漬物を食べて漬物臭を感じるのは当たり前ですよね?
だって漬物を食べているんですから。
それだけ発酵食品としての説得力を感じます。
発酵食との食べ合わせ抜群


生酛製法による乳酸発酵を経て、爽やかだけど奥深い酸味が同じ乳酸発酵食と抜群にあいます。
スペインの2つ星レストラン・ムガリッツでもオンリストチーズと合わせる専用のコースも用意されているそうで、ウォッシュ・白カビ・青カビチーズとも相性は抜群です。
スペインの2つ星レストランにもオンリスト
日本食だけにとどまらない相性の良さから世界中の食のプロ達からも注目を集めていて、スペインの2つ星レストラン・ムガリッツにもオンリストされています。
国内だけでなく海外からも高い評価を受けた驚きのどぶろくです。
引用元:SAKETIMES 日本酒をもっと知りたくなるWEBメディア
オススメできる人・イマイチな人
オススメなのはこんな人!
オススメできるのは、どぶろくに限らず漬物やチーズなど、普段から発酵食を食べ慣れてる人にオススメです。


また、このどぶろくは熱殺菌していない生酒なので、開栓時にゆっくり開けないと噴き出してしまう恐れがあります。
要冷蔵品ですので、生酒についてある程度知っている方は問題ないでしょう。
なにより、発酵食との食べ合わせはぜひ試してみる価値あります。
上質なナチュールワインにも通じる世界観を感じられます。
イマイチかもしれない人…
逆に、発酵食全般にあまり慣れていない人には少し個性が強すぎるかもしれません。
また内容量が500mlとやや少ないので、大人数で飲むにはいささか物足りないでしょう。
生酒ゆえ微生物がまだまだ元気に発酵しているので、要冷蔵・横倒し厳禁なのが面倒に感じる人にも向いていません。
内容量も少なく値段も決して安くはないですが、そのぶん液体に濃縮された原料の生命力・発酵のごく味が強く感じられ、少量で濃い体験をするタイプですね。
保管と取り扱いに多少の手間はかかりますが、遠野にこだわり、独自のスタイルを貫く遠野どぶろくのポテンシャルをぜひ一度味わっていただきたいです。
実際に飲んだ率直な感想…
- 内容量は多くないが、濃密な食味体験ができる
- 日本酒でいうオフフレーバーは感じるが欠点ではない
- オフフレーバーすらも納得させる発酵食としての凄みがある
- 発酵食との食べ合わせを楽しみたくなる